2018.10.8
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開業・経営

医業承継の問題 医師になる子・ならない子の相続をどうすべき?

(写真=espies/Shutterstock.com)
(写真=espies/Shutterstock.com)
医業を行う世帯での相続において、重い課題となるのが「医師になる子とならない子、それぞれへの遺産分割をどうすべきか」という問題です。相続するのが医業を継ぐ子一人だけなら問題ないのですが、たいていは跡継ぎ以外に子がいます。一般世帯の相続でも兄弟姉妹の間で「争続」になりやすいのですが、医業承継の世帯ではより深刻になります。

医師の世帯では「完全に平等な相続」は難しい

医師に限らず、その世帯で何らかの事業を営んでいる場合すべてに言えることは「完全に平等な相続は困難」ということです。医業を子どもに受け継ぐということは、医業に関連する資産を受け継ぐことになります。そして医業関係の資産は一般的に数百万円単位になるものです。保有する土地や建物で医業を行っている場合には、その不動産も医業関連資産として子どもに引き継がなくてはなりません。また、医療法人を経営しているなら、その出資持分が医師になる子の相続財産となります。

医師になる子がこれら数千万円にのぼる資産を引き継ぐことになる一方、医師にならない子にほとんど資産が残らないケースも少なくありません。普段から不動産投資や金融投資を行っている医師ならば話は別ですが、本業だけに専心してきた医師の場合、保有資産のほとんどは医業関連であることも珍しくないからです。

結果、医師になる子とならない子の間で「不平等な相続」が発生することになります。

医師にならない子の言い分「跡継ぎだけ財産を相続してずるい」

医業承継が関わる世帯において、医師にならない相続人の言い分は「跡継ぎだけ数千万円も資産を引き継いでずるい」が真っ先に来ます。また、医業関連以外の資産がほとんどない場合は、医師にならない子が最低限もらえる分、つまり「遺留分」が侵害されることもあります。

このため、医師にならない子は医師になる子に対し、遺留分減殺請求を行う可能性があります。場合によっては「医療機器を売ってでも払え」と迫るおそれがあるのです。

医師になる子の言い分「財産を相続しても自由に処分できない」

しかし、現実には医師になる子が相続した医業関連の資産を売却するのは現実的ではありません。医業関連の資産はあくまでも事業の運営のためのものであって、絵画や金の延べ棒のような余剰資産ではないからです。診察台一つだけでも売ってしまえば医業の継続に支障が出るのは目に見えています。

さらに、医師になる子も不満を抱えています。それは「自分の自由になる資産など一つもないのに事業継続という責任だけ押しつけられた」「跡継ぎでない兄弟姉妹は少額でも自由に処分できる遺産をもらったのに、さらにこちらにお金を請求するのは不公平だ」というもの。

つまり、医業の世帯の相続では、跡継ぎの子もそうでない子も不満を抱えやすくなるのです。ここから発生する「争続」を防ぐには、対策が必要となります。

対策(1) 代償分割の検討

対策としてまず考えておきたいのが、医師になる子からならない子に対し、代償分割の実施をあらかじめ検討することです。医師にならない子は後を継がない分だけ、少ない遺産を相続することになります。そのため、医師になる子が現金などを医師にならない子に支払うことで、相続における兄弟姉妹間の不公平をなくす効果があります。また、跡継ぎの子がお金を払うという行為をすることで、跡継ぎでない子が「兄が自分の気持ちを気づかってくれた」と感じ、その後の相続人同士のつきあいが円滑になる可能性もあります。

ただ、代償分割にもデメリットがあります。医師になる子に対し、医業承継の負担だけでなく、代償分割の負担もかかるということです。相続で親の資産を引き継いだとしても、そのほとんどは事業運営のためのものなので売却することは困難です。仮に売却ができたとしても、その売却益は譲渡所得として所得税が課せられることとなります。

そのため、医師になる子は自ら預貯金で支払うか、あるいは金融機関からの借入や分割払いをせざるを得ません。医院経営だけでも大変なのに、さらなる負担がかかることは相続のありようとしてはあまり望ましくありません。

こういったことから、被相続人候補となる親が生命保険などを活用して医師になる子に資金を残せるようにし、負担が減るように事前の対策をとっておくことが大切です。また、親が生前中に、自分の死後起こりうることについて跡継ぎ候補と話合い、代償分割について検討することも必要になります。

対策(2) 生命保険の活用

(1)の代償分割でも触れましたが、生命保険を活用して医師になる子とならない子の格差を解消するのは有効な対策の一つです。

医業関連以外で現預金や有価証券などの資産を多く保有している医師ならば、医師にならない子に対しても相応の財産を残すことは可能かもしれません。しかし、現預金も有価証券にも相続税が課せられます。そして医師になる子も医業関連の相続財産に課税されることになり、結果として、どちらにも不満が残る可能性があります。

ただし、生命保険の受取人をそれぞれの子に設定し、被相続人候補の生前から少しずつ対策を行っておくことで、それぞれの不満を解消することができます。生命保険には次のような特徴があります。

・「500万円×法定相続人」に相当する金額まで相続税が非課税
・受取保険金は掛金より多くなるケースが多い
・遺産分割の対象外
・現金で受け取れる

このような特徴があるため、医師になる子の納税資金の準備対策にもなりますし、医師にならない子への配慮にもつながる可能性が高いのです。

以上はお金の面での相続対策ですが、もっとも大事なのは被相続人候補である親が生前から医師になる子・ならない子に対して、親としての思いを十分伝えておくことです。「争続」はお金の不平等が原因のように見えますが、実はお金をモノサシにして親の愛情を測っているに過ぎません。日頃から親が積極的に子にかかわり、親子間・家族間・兄弟姉妹間の意思疎通を図っておくことが、「争続」の最大の対策になります。

文・鈴木まゆ子(税理士)

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