2018.7.17
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開業・経営

医院の承継を考えている歯科医師が準備しておくべき節税

Kotin / Shutterstock.com
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歯科医院を経営している開業医の悩みの一つは「自分が引退もしくは亡くなった後の医院の承継をどうしようか」ではないでしょうか。現在、開業医の高齢化が進んでおり、2016年の段階で診療所に従事する歯科医の平均年齢は52.9歳、60歳以上の歯科医の割合は31.2%となっています。「自分はまだ若いから大丈夫」という人も多いかもしれません。しかし、医院の承継の対策は、病気や死亡のリスクをかかえやすくなる60代になってからでは遅く、遺族に大きな負担をかけてしまうことになりかねません。

歯科医院の相続はトラブルが発生しやすい

歯科医院の承継とは「相続」のことです。通常、歯科医院の相続については、次の2点でトラブルが発生しやすくなっています。
  • 相続人同士が遺産分割協議で争う
  • 相続税が払えない
なぜこのような問題が生じるかというと、歯科医院の相続財産としての評価が高くなりやすいからです。個人事業主として医院を経営していた歯科医の年収は平均で1,187万円前後であり、歯科医院にはさまざまな高額医療設備がそろっています。結果、預貯金や有価証券、設備といった財産だけでも高い相続税になりやすいのですが、医院経営のための不動産などをも含めると、さらに高くなる可能性があります。その結果、相続税も高くつくのです。

また、経営者として医院を承継するのは基本的にひとりであるため、他の兄弟や親族と公平に遺産を分割するのが難しく、争いになりやすい傾向にあります。そのため、医院の承継者は相続税だけでなく代償分割(遺産を受け取れなかった相続人に対し、受けとった相続人が現金で補填すること)のために、承継した医院の土地や建物などを売却せざるを得なくなります。つまり、「高い相続財産のために廃業せざるを得なくなった」事態に陥るのです。

こういった相続開始後のトラブルを防ぐために、次にご紹介するような方法で、早いうちに手を打つことが肝要です。

生前対策1 出資持分のない医療法人を設立する

医院承継に関する税金の悩みをシンプルに解決したいなら、出資持分のない医療法人を設立するとよいでしょう。出資持ち分がないということはすなわち出資持ち分を通じた法人と個人のつながりがないということです。そのため、医療法人の出資持ち分について課される相続税が発生しないまま、円滑に医院承継を行うことができます。それ以外の財産については親族間の感情に配慮しつつ、通常の相続対策をしておけばよいことになります。

ただし、デメリットもあります。それは、出資持ち分のない医療法人を解散した場合、その残余財産はすべて国に帰属するということです。非営利性・透明性の確保という観点での制度による法人形態であるため、個人への配当は一切禁じられています。さらに、実際に設立をする場合には、社会保険診療などの収入が全収入の80%超でなければいけないなどといった要件を満たさなくてはなりません。

また、設立後は毎年の事業報告などの事務手続きを含めた運営管理が複雑化します。対策として考える場合には、メリットだけでなくこういったデメリットもあわせて検討してみるのがよいでしょう。なお、2007年の第5次医療法改正により、出資持分のある医療法人の新規設立はできなくなっています。

生前対策2 MS法人(メディカルサービス法人)を設立する

「医院経営によって生じた利益を少しでも子や孫に残したい」と感じるならMS法人の設立を検討してみてもよいかもしれません。MS法人は、株式会社や昔の有限会社に近いものです。出資持ち分のない医療法人と異なり、医院の不動産賃貸や医療用機器の販売や給食業務、リネンサービスといった収益事業を行うことができます。

すでにある個人医院や医療法人とは別にMS法人を設立し、MS法人が医院の事務業務を代行したり、医療機器や備品のリースを行ったりすることも可能です。MS法人の株式は相続税の課税対象ですが、個人医院や医療法人との間で財産が分散されているため、株式の評価額は低くなります。結果、1個人や1法人がすべての財産を所有する場合よりも相続税額は低くなりやすいのです。

また、医療法人では昨今話題の事業承継税制の対象外となりますが、MS法人の場合は、資産管理会社でなく、かつ、非上場株式等の相続税・贈与税における納税の猶予制度の要件を満たせば、事業承継税制の適用対象となります。実質永久的に贈与税・相続税を払わずに事業承継を行うことができるのです。これにも注意点があります。利益相反行為の防止の観点から、MS法人との取引が医療法人の設立・経営に支障が出るようであれば、MS法人と医療法人の役員を同一人物が兼任することはできないという点です。

また、MS法人であっても事務手続きの負担がかかりますし、売上によっては法人税だけでなく消費税や事業税なども課されることになります。MS法人についても医療法人と同様、メリット・デメリットを含めて検討することが必要です。

生前対策3 生前贈与の活用

生前贈与の活用は、一般的な相続ではもっともポピュラーな節税対策ですが、医院の事業承継においても必須の対策になります。生前贈与に関する相続税には大きく分けて2つあります。1つ目は暦年課税制度で、毎年1月1日から12月31日までの間の贈与金額が110万円未満なら非課税になるというものです。2つ目は、相続時精算課税制度といい、「父母・祖父母から子・孫へ」という直系の血縁関係での生前贈与については、一定要件を満たしたうえでの贈与ならば上限2500万円まで贈与税が非課税になるというものです。

これらを組み合わせて現預金や有価証券、MS法人の持分や他の資産の移転を行うのも節税対策としては有効です。さらに、相続人が高い相続税であっても払える余裕を持てることになります。ただし、ここでも注意点があります。

暦年課税制度については、毎年同じ子どもに対して贈与を行うのであれば、仮に1回の金額が100万円未満であったとしても、「100万円×〇回分の総額を数年に分けて贈与しただけ」という定期贈与としてみなされる可能性があります。

つまり、単年で贈与した金額ではなく複数年に渡って贈与された総額に対して課税の可否を判断され、贈与税が課税されてしまうのです。そのため、贈与の都度、贈与契約書を作成するなどの対策を取る必要があります。

相続時精算課税制度の注意点としては、以下の2点があります。
  1. 一度選択したらその関係性(たとえば父-子など)においては2度と暦年課税制度を使うことができない
  2. 贈与した財産は相続開始時には贈与時の時価で相続財産に持ち戻しとなるため、相続時の時価が贈与時の時価より下回れば税金の払い損になってしまう

いずれの対策もひとりで実行するのはなかなか難しいものです。専門家に相談しつつ、潤滑な事業承継の準備と節税対策を行っていくことが望ましいでしょう。

文・鈴木まゆ子(税理士)

 

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